東京高等裁判所 昭和53年(ネ)1979号 判決
神奈川県神奈川警察署の警部渋谷良治、警部補小黒永雄、巡査部長箕輪作二、同下田宏彦、巡査長石井勝彦が両控訴会社のツルマークは、河上進一が両控訴会社の取締役で、しかも、両控訴会社の共同使用している事務所たる横浜市西区戸部本町五〇番地二一号所在第二山田ビル二〇一号室の賃借名義人でもあったところから、同人個人が両控訴会社の商号(控訴人日本開発株式会社については当時の商号株式会社引越梱包センター)で運送業を営み、その業務のために使用するものであり、そのことが日本航空株式会社の社章及び商標として登録されているサービス・マークに係る不正競争であると認め、同人に対する不正競争防止法違反被疑事件につき、神奈川簡易裁判所裁判官に差押・捜索許可状を請求してその発付を受け、昭和五〇年一〇月二二日右令状に基づき前記第二山田ビル二〇一号室内において差押・捜索を実施し、原判決末尾添附押収品目録記載の物品を押収したこと、その後、右被疑事件は、横浜地方検察庁において嫌疑不十分の理由で不起訴処分となり、これら押収品が昭和五一年二月頃還付されたことは、いずれも当事者間に争いがなく、控訴人らは、本件差押、捜索が国家賠償法一条にいう違法に他人に損害を加わえた行為に該当すると主張する。
しかし、国家賠償法一条にいう「違法」とは、国又は公共団体の公権力の行使が法の許容する限界を超えてなされることを意味すること明らかである。そして、犯罪の捜査は、秘密を保持し、しかも迅速に行なわれることを必要とする関係上、捜査官が犯罪捜査のため裁判官に令状の発給を求めたり、発給された令状を執行するには、刑罰権の存否を終局的に確定することを目的とする公判手続の場合等とは異なり、客観的に犯罪の嫌疑が十分で、且つ、有罪判決を期待し得る相当の根拠があれば足りるのであって、単に後日不起訴処分がなされたり、無罪の判決が確定したというだけでは、令状の請求やその執行が当然に違法となるものではなく、捜査官において犯罪が存在すると考えたことについて、当時の資料の下で、常識上到底首肯し得ないほど合理性を欠く重大な過誤が認められる場合に限り、捜査官の捜査活動が違法になるものと解するのが相当である。
いま、本件についてこれをみるのに、前記警察官らが、本件不正競争防止法違反被疑事件について令状を請求したり執行した当時、河上進一に不正競争防止法違反の事実があるものと認めたことに前叙のごとき重大な過誤があったという点は、控訴人らの主張・立証しないところであり、また、≪証拠≫によれば、昭和五〇年八月頃神奈川警察署管内の電柱等に、白地に赤い鶴を描いた原判決末尾添附図面記載(一)又は(四)のごときマークを付け、「引越小荷物発送(〇四五)三二二―五三〇〇引越センター」とか「引越・地方発送(〇四五)三二二―五三〇〇日本梱包株式会社」と表示した広告ビラ数百枚が貼付されていたこと、そこで、前記警察官らが捜査を進めた結果、右広告ビラに記載されている電話は、前記河上進一が賃借している第二山田ビル二〇一号室に設置したものであり、同所入口のドアには「日本梱包株式会社」の表示と原判決添付図面記載(五)のツルマークの表示があったこと、横浜市内においては「日本梱包株式会社」や「引越センター」なる商号の会社の登記はなされておらず、また、商号の会社に対し一般区域貨物自動車運送事業免許の与えられた事実がないこと、また、日航と「日本梱包株式会社」ないし「引越センター」とは全く関係がなく、これらの会社名義で原判決末尾添附図面記載のツルマークが使用されることにより日航としては迷惑を被ることが判明し、現に本件捜査の対象となった右図面記載(一)、(四)及び(五)のツルマークと日航の使用している同図面記載(六)のツルマークとは、一見して、色、形とも類似しており、また、日航は日本通運株式会社にツルマーク入りのコンテナを貸与して貨物運送をさせていることが認められ、右認定事実によれば、当時、河上進一には、客観的に不正競争防止法違反の嫌疑が十分で、且つ、有罪判決を期待し得る相当の根拠がなかったとはいえない。
(渡部 浅香 中田)